Site:
Program:
Site Area:
Building Area:
Floor Area:
Completed:
Architects:
Co.Architects:
Asst.Architects:
Structural Eng.:
Facility Eng.:
Constructor:
Photo:
Tokyo
a house
115.41㎡
90.02㎡
166.11㎡
Nov. 2020
Chika Kijima
Naoki Hirai
Shota Taniguchi
坪井宏嗣構造設計事務所
ZO設計室
株式会社相川スリーエフ
淺川敏
Description
幅員20mの道路越しに光が丘パークタウンと対峙する角地に立つ木造2階建て店舗付き住宅の建て替えプロジェクトです。
既存建屋は、昭和40年代初頭グラントハイツが全面返還される直前に新築され、1階の一角でタバコ屋を上階で親子4人の生活が営まれてきました。近年1階には床屋とおにぎり屋の2店舗が入り2階は母の独り住まいとなり、息子夫婦との同居を踏まえ、住居規模を拡張する代わりの店舗用途を縮小や、規模を拡大し共同住宅化する選択肢なども検討されたが、駅から徒歩10分の立地での今後の小規模店舗需要はなかなか予想が立てにくく、将来的には地域で活用できる用途展開も視野に入れながら1階は従来通り28㎡2店舗を確保を踏襲、上階に2層で約100㎡の専用住宅を設けることに落着しました。
交通量に伴う振動や騒音、直線道路を吹きすさぶ北風などから守られた快適な内部空間を確保するため、躯体はRCとし、特に道路に面する開口はサイズや個所数を限定しつつ、外的負荷の軽減が外部世界をシャットアウトすることと同義にならないように、このプロジェクトでは特に意識しました。長年ここで過ごしてきた住人が変わらず地域との関係を保つためにも、また外部環境のささいな変化にも敏感に気づける状況に住まうことが地域の豊かさを担う一歩になるという思いからです。
道路幅員や目の前の交差点の人・自転車・車の交通量、視線や高層団地のスケールと、住宅の面積規模を対比させると、絵本の「ちいさいおうち」の図式に陥りがちでしたが、光が丘パークタウンや公園も半世紀の間に蓄積された豊かさを内包し敵視する対象ではなく恩恵に与る要素も多々あり、建築の佇まいについては小ささをカリカチュア的に扱わないようにしながら、高層団地、マンション、大型店舗、戸建て住宅の混在する環境での独自の存在感を見出すべく勾配屋根の形状や軒高さなどを模索しました。
将来エレベーター設置用に確保されたシャフト部分は当面倉庫とし、その外周をなぞるように前面道路から上る階段が住戸へのアプローチとなります。大きな街とちいさいおうちをつなぐ路地のような緩衝帯でもあり誘導装置でもある。玄関ポーチから細やかながら直接テラスへ回り込む隙間を確保、庭に回り込み縁側から上がり込む近所付き合いの名残とし、住人と外部との距離感にバリエーションを用意しました。
ボード塗装や合板仕上げが主となる2階は、水回りやダイニングを息子夫婦と共有しつつ、母の主たる居場所となります。キッチンコンロの角が辻となり、ここを中心に放射状にいくつかの場が隣接する平面形状は、奥まり方の度合い、物陰への潜み方、佇む場所について複数の選択肢を用意することで、この住宅で初めて共同生活を営む3人の距離感の調整をサポートになればと考えました。放射状のベクトルの先には開口部が設けられ、道路側の外部と造作ボリュームによる奥行き感を保ちながら接する一方、従来の住宅地側には高低差やテラスを介しおおらかに室内をさらけ出しています。
3階は、中央に水回りや収納をまとめ、周囲に在宅ワークも多い息子夫婦の居場所が分散する回遊平面としました。建物の規模的にRCであれば外周壁のみで勾配屋根の支持が可能となったため、入れ子状の水回り・収納は構造には全く寄与しない代わりに勾配天井のための照明のよりどころとしました。南側の一角は母の居所からの吹抜けで、既存建屋の床柱や欄間を再利用し、母の手による書の展示スペースでもあります。目線は通常は交わらないが、気配によって上下が繋がる場となっています。
一般的に玄関のある階から階段を経由し吹抜けも大きくはない上階は、住宅の「奥」、プライベート性のより高まる場となりますが、ここでは強固さ、触り心地などから外壁を想起させるコンクリート化粧打放仕上げをメインの仕上げとし、さらに北側道路の景色が屋内空間を貫通し、回遊スペースと合流するかのように開口部を配することで、家のソトが反転してウチに入り込んでくるようなしつらえとしました。
赤瀬川源平氏の「宇宙の罐詰」に喚起され、カニ缶の代わりに小さなおうちに裏返された街が封じ込められるイメージです。家形デザインの出発点はもともと建て主が望んだ住宅の象徴でしたが、外部階段から屋内に入りたどり着いた先に、建物に守られながらも再び街に飛び出すメビウスの輪のような空間構成が、時として露悪的とも感じるようなガラス張りの家にしなくても、より強く街を感じ、街の気配に寄り添う住まいとなることを期待しました。
家形の塊の裏返し感は、コンクリート型枠の目地割デザインや稜線の施工精度に担保されています。
在宅率の高いこともあり採用した外断熱が、3階内装を化粧打ち放し選択につながりました。湿式外断熱の採用に伴い、勾配屋根の先端は樋と一体化した軒を少し大きめに設け、美観や性能を担保すると共に、住宅と道路との間に小さな緩衝帯を派生させています。
©2021 Chika Kijima